『獺祭』の旭酒造さんや『醸し人九平次』萬乗醸造さんなど、全国各地の様々な有名酒蔵が、山田錦を使ったお酒を造っていますよね。
多くの日本酒銘柄は、山田錦で作ったものには特別に「山田錦使用」なんてラベルを貼ったりします。
というか、山田錦が人気すぎて『山田錦』という名前のお酒まで出ています。よく、コンビニやスーパーでもこのお酒を目にします。
・・・なんで、皆さんそこまで山田錦にこだわるのでしょう?
本ページでは、大人気の山田錦の秘密と、そもそも酒米ってなんだっけ?というところに迫っていきたいと思います!
酒米とは?酒造好適米とは?醸造用玄米とは?
山田錦を知る前に、まずは酒米について理解しましょう。
「酒米」を辞書で調べると、次のように書かれていました。
酒造用に作った米。
引用:酒米とは – お米の種類 Weblio辞書
酒造用、つまりはお酒を造るために作られたお米のことを酒米というのですね。
酒造用のお米の中で特に幾つかの条件をクリアしたお米を、お酒の世界の専門用語では「酒造好適米」と言います。
また農林水産省では、同じくお酒に使われるお米を表現する言葉として「醸造用玄米」というものを利用しています。
・・・どれかに統一してくれればいいのに!
酒ナビゲーター資格のテキストブックである『日本酒講座』によると、日本では、お酒を造るのに使われるお米が全体の米生産量の5%ほどになるそうです。その中で、前述の酒造好適米はたったの1%しかありません。
これは、お米の生産量全体の、なんと0.05%ということになります。
少な!
なんでそんなに少ないかというと、まず理由のひとつには酒造好適米になる条件が厳しいということが挙げられるでしょう。
- 大粒であること
- 心白があること
- タンパク質・脂肪が少ないこと
- 吸収率がよいこと
- 外硬内軟性に富むこと
粒が大きい方が精米しやすいためです
心白とは、酒米の中心にできる白いもののことです。心白があるということは、お米の中心に隙間ができていて光が屈折しているということ。隙間があると麹菌が入りやすくなります
お米の周りに宿るタンパク質や脂肪が、お酒になった時に雑味になると言われています
お米を洗う際に、吸収率の違いがものを言うそうです
お米を蒸した時に、外側は固く内側は柔らかい状態になりやすいお米が重宝されます
酒造好適米であるためには、これらの条件をクリアしなければなりません。
そして、酒造好適米は作るのが難しいと言われます。
- 稲の背丈が高く、倒れやすいため
- よく陽をあて、風通しをよくするために、通常のお米よりも倍ほどの間隔をあけて植えなければならない
- 病気や害虫対策をしなくてはならない
こういった栽培上の難しさがあるそうで、このことも酒造好適米の生産量を少なくしていることでしょう。
ちなみに、稲の背丈はこのくらい違います。
写真は、日本酒ナビゲーター資格受講時に大越先生に撮影させてもらったものです。
右が酒造好適米の『備前 雄町』で、左が『コシヒカリ』です。その差はひと目見て明白なほどです!
なお当然、単純にお酒の消費量が減っている分、酒米の生産量が減っているというのも、見逃せない大きな理由でしょう。
主な酒米の種類
日本で現在栽培されている酒米のうち、主なものには次のようなものがあります。
- 山田錦
- 五百万石(ごひゃくまんごく)
- 美山錦(みやまにしき)
- 雄町(おまち)
山田錦については、後述します。
五百万石は、新潟や富山、福井、石川などの北陸地方を中心に、北は山形から南は大分まで、日本全国で栽培されている酒米です。
その名前「五百万石」は、この品種が初めて新潟の農業試験場で育成された1957年に新潟県のお米の生産量が五百万石を突破したことを象徴して付けられたのだそう。ちなみに五百万石って、リットルにすると約9億リットルなんですよ。余計意味わからないけど、とにかくすごく多いってことはわかりますね。
五百万石は高精米をするのには向かないそうですが、淡麗な飲み心地が人気で、新潟県の辛口酒にもよく使われます!
美山錦は、秋田県や山形県など、主に東北から北関東、一部北陸で栽培されている酒米です。というのも、寒さに強い品種なのです。それでいてキレのいいお酒ができるっていうもんだから、人気が出るのもわかります。
雄町は、その多くが岡山県で栽培されている酒米です。その昔、岡山県高島村雄町というところにいた岸本さんという方が発見した穂を改良したのちに、1921年に岡山農業試験所で選抜したのだとか。
雄町はあまり強い品種ではないため、1960〜70年代に一度は数が激減。しかしその品質の高さから、1990年代にはたくさん栽培されるようになったのだそうです。山田錦登場以前は鑑評会で群を抜いていたとも言われている、いわば超大御所のようなお米なのです!
山田錦とは?
さて、それではいよいよ本題の山田錦です。
山田錦は、今では全国各地で栽培されている酒米です。農林水産省に、醸造用玄米として登録されている範囲での最北端は宮城県で、最南端は宮崎県にて栽培が確認できています。
しかし、その中でも最も有名なのは兵庫県産の山田錦です。
山田錦は心白の部分が大きく育つため、特に大吟醸を作る際に力を発揮するお米です。1923年に兵庫県の農事試験場で生まれ、現在新種鑑評会で上位に並ぶ酒の多くがこのお米を使ってできています。
数ある酒造好適米の中でも山田錦が特別なのは、同じ山田錦でも栽培されている地区によって「ただの山田錦」と「特A地区で作られた山田錦」があるということを見ても明らかでしょう。
Wikipediaなどによると、「特A地区」と呼ばれる最高級山田錦の田んぼは、兵庫県の三木市と加東市というところにあるのだそうです。
それが大体どこらへんかというのが上のピンを刺したところなんですが、例えば神戸の中心三宮から公共交通機関で行こうとすると1時間強かかるくらいの場所にあるようです。行ったことはないんですけど、いつか山田錦が一面に植えられた様子を見てみたい!
それから栽培の難しさも特徴の一つとして挙げられます。
難しいんですよ、山田錦は。他の品種よりずっと背丈が長い。
引用:耕す| 山田錦の栽培、醸し人九平次の米作り
これは、山田錦を社員の手で自ら栽培していることでも知られる、人気の日本酒『醸し人九平次』のウェブサイトに記載されている、兵庫県JAみのり 黒田庄山田錦部会 荻野さんの言葉です。
稲穂の背が高いということは、風で倒れやすいですからね(まあ前述の通り、酒造好適米そのものに背丈の高いものが多いのが特徴なんですけどね・・・)。困難な栽培を経て市場で人気を獲得しているのですね。うんうん。
日本全国で栽培されている酒米一覧
ここまで山田錦が特別な酒米だということを見ましたので、それでは最後に、日本全国で栽培されている醸造用玄米(=農林水産省が使っている、酒米を指す言葉)をご紹介しましょう。
なお、このリストは農林水産省が毎年行っている調査『産米の農産物検査結果』資料の中から、醸造用玄米の品種別生産エリアを、県別にソートし直したものです。どの県でどのくらいどの酒造好適米が生産されているのかをチェックできるので、ちょっと面白いと思います(結構地道な作業をしてデータ整理しました。すべての醸造用玄米を県別に一覧できる表は、おそらく他にないんじゃないかなと思います!)
日本酒の味を左右するお米の話、いかがでしたでしょうか?
お米のことをもっと知ると、もっともっと日本酒がおいしくなる気がします!
僕もますます興味が湧いてきました!!