このページを見ていただいている方は、おそらく「日本酒度って何?」という方か、「日本酒度ってなんだっけ、忘れちゃった」という方のどちらかじゃないかと思います。

日本酒度はよく、お酒の辛さを表すものさしとして使われます。しかし実際にはそう単純なものではありません。日本酒の辛さ甘さは、日本酒度以外にも酸度や甘辛度といった様々な要素が絡んで決まります。

このページではまず、日本酒度と酸度の意味について学んだ後、甘辛度と日本人の辛口信仰について触れ、最後に日本で最も日本酒度が高いお酒をご紹介していきます!

日本酒度と酸度とは?

まず、とってもわかりにくい日本酒度と酸度の説明からしてみます。

日本酒度

初めて勉強する方にとって、日本酒度を理解することは非常に難しいです。難しいというか、ややこしいのです。

ここでは話を少し簡単にするために、Q&A方式で説明を進めたいと思います。

Q1. 日本酒度が高いって、どういうこと?

日本酒度が高いというのは、予め決められた温度においてその日本酒が、同じく決められた温度での水よりも、物質的に軽いということなのです。

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水の決められた温度とは4度のことで、これは水が4度の状態において最も重くなるからそう決められています。一方でお酒の決められた温度とは15度のことで、こちらの理由については正確にはわかりません。可能性として、日本における平均的な室温が15度前後だからそのように決められたのではないか、という意見も見かけます。

ちなみに日本建築学会関東支部の勝野さんの研究結果では、日本の室温(リビング)の平均は冬には12.3度、夏には28.0度ほどなのだそう。やや15度よりは上振れしますが、おおよそ15度くらいを室温として想定されたとしてもおかしくないのかもしれません。

話を戻しますが、日本酒度が高いというのは、つまりそのお酒が物質的に軽いという意味なんです。逆に言えば、日本酒度が低いお酒は、物質的に重いお酒ということになります。

Q2. なんで、お酒の重さが変わるの?

なんでお酒の重さが変わるのか。それは、お酒の中に含まれている糖分の量が、お酒によって違うからなんです。糖分は重く、アルコールは軽いのです。したがって、糖分が多く残ったままの日本酒は重くなり、その日本酒の日本酒度はマイナスに傾きます。逆に、アルコール分が多くなった日本酒は軽くなり、その日本酒の日本酒度はプラスに傾きます。

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そもそも日本酒とは、ざっくり言うと

  1. お米を蒸す
  2. 蒸したお米に麹菌(こうじきん)を混ぜる。麹菌がお米のデンプンを糖に変える
  3. それに酵母(こうぼ)を混ぜる。酵母が発酵しながら糖をアルコールに変える
  4. 発酵が終わったどろどろのお米(もろみと言う)から液体を絞る

以上のような工程を経て液体になったもののことを言うわけです。なお、日本酒造りの工程について、詳しい話は『日本酒の作り方!全11工程でお米からお酒までを逆再生!』をご覧ください。

そしてこの工程でいう3番において、どれだけお米の中の糖分をアルコールに変えてしまうのかが、お酒の重さを変え、それが日本酒度の高低に反映されるのです。

Q3. つまり、日本酒度が高いと糖度が少なくて、辛くなるってこと?

基本的には、日本酒度が高くてプラスに傾いている日本酒は、糖度が少なく、辛口と表現されることが多いのです。一般的には、プラス3度〜5度程度で「辛口」と評価され、逆にマイナス3度〜5度で「甘口」と言われます。

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しかし、ここからさらに話をややこしくするのが「添加アルコール」と「加水」です。いずれも一般的な日本酒の製造工程において、味やアルコール度数を整えるために使われています。

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「え、日本酒にアルコール入れちゃうの!?水も!?」と思われた方もいるかもしれませんが、多くのお酒にとってそれは普通のことで、現在日本で販売されている日本酒の7割以上はこうして作られています。そしてそうでないお酒は「純米」とか「原酒」といった肩書き付きで販売されることが多くなっています。

この辺りは『吟醸酒とは?純米酒とは?ややこしい”特定名称酒”を徹底解説!』に詳しくまとめていますので、よければご覧ください。

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そして、アルコールを加えたお酒はアルコールの割合が高くなり、日本酒の重さが軽くなります。加水したお酒はアルコールの割合が低くなり、日本酒の重さが重くなります。ただし、いずれも糖分の量は変化しません。

このようにして全体のバランスが整えられた後に日本酒度が計られるため、場合によっては日本酒度の高低と日本酒の甘辛がリンクしないという事態になってしまうのです。ややこしいですね〜。

それで、それだけで終わりじゃないんです!まだもうひとつ、日本酒度と日本酒の甘口辛口との関係を複雑にする要因があります。それが酸度です。

酸度

酸度とはその名の通り、そのお酒に含まれている酸の量を示す指標です。

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日本酒には乳酸やリンゴ酸、コハク酸などの酸が含まれており、それら酸が日本酒の味わいに大きく影響を与えます。基本的には、酸度が高い(酸が多い)お酒は、舌への刺激が強いために辛口に感じやすく、一方で酸度が低い(酸が少ない)お酒は甘く感じやすいと考えることができます。

ただし、酸はお酒の辛さ甘さだけでなく、酸の種類によって旨みにも影響します。したがって、日本酒度同様に酸度だけで単純にお酒の甘口・辛口を理解することは困難と言えます。

日本酒度と酸度の合わせ技「甘辛度」

さて、ややこしい話を簡単に説明しようと試みてさらにややこしくなるっていうこと、ありますよね。日本酒度と酸度、そしてお酒の甘口辛口の世界にもそれが起きているように感じます。

1974年、公益財団法人日本醸造協会が提案したのが「甘辛度」という指標です。これは、日本酒度と酸度の両方の数値を次の計算式によって組み合わせて算出されるもので、その名の通り日本酒の甘さ、辛さを知る手がかりとなります。

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甘辛度の数値が高いほど甘口ということになります。ただ、いかんせん甘辛度は、お酒の瓶に必ず記載されているデータではありませんので、毎度自分で計算しなくてはなりません。

超ややこしいですが、どうしてもお酒の辛さ・甘さを知りたいという方は、チャレンジしてみてください!(面倒ですね・・・)

ちなみに、KADOKAWAから出版されている『日本酒入門』という本によると、人間は温かい酒をより甘く感じる傾向があるそうです。いくつもの指標がありすぎて、訳がわかりません!

結局、どんなお酒が甘口・辛口なの?

結局のところ、お酒の甘い辛いを本当に理解するためには、日本酒度や酸度の仕組みを基本として理解しつつ、実際に飲んでみて確かめるしかないのでしょう。

なお極端な場合を除けば、「甘い」と表現される日本酒はフルーツのような甘さではなく、まろやかで旨味が多いという状態を言っています(本当に果実のように甘いお酒もあります)。一方で日本酒の「辛い」も、唐辛子のような後を引く辛さではなく、アルコールによる刺激の強さをそのように表現していることが多い印象です。

ただし人間の感覚なんて曖昧ですし、あの人の感じる「辛い」と自分が感じている「辛い」が必ずしも一緒とは限らないんですよね。僕も友達とお酒を飲んでいて、「あ、これは辛い」と思ったら、友達にとってはそれは甘口だったみたいなことがたまにあります。

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だから、お酒の各種指標や甘辛の基準はだいたいの目安として知っておいて、あとはただ日本酒を楽しむという姿勢がいいのかなと思います(プロはそれじゃダメなんでしょうが、素人は美味しくて楽しければ最終OKですよね笑)。

今回リサーチしている中で、ある質問サイトにて、「純米大吟醸、純米吟醸、特別純米、そして純米酒といった純米系の日本酒は甘く感じる」という意見に出会いました。また、「辛口とは、あんまり甘くない日本酒だ」と表現している方もいらっしゃいました。人それぞれの捉え方があって、とっても面白いです!

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ちなみに日本人の中には、辛口の日本酒が好きだという方が多くいます。

これには様々な理由が推測されています。例えばお年寄り世代にとっては、「甘い日本酒」と聞くと、かつて品不足の時に日本酒に糖を加えて作られていた「三増酒」と呼ばれる質の悪い日本酒を思い出すので、辛口を好むようになったという説があります。あるいは、近年になって訪れた辛口日本酒最強ブームに影響を受けたという若い世代も多くいるでしょう。

一方で東京都押上の日本酒バー「酔香」さんのブログによると、辛口が好きだというお客さんに、やや甘口の部類に入るお酒を出して納得されるということも少なくないそうです。

ということは、なんとなく「スッキリ爽快な辛口日本酒が好きだ」と思っている方も、実は改めて先入観を忘れて飲んでみると、甘口の日本酒の方が好みだったということもあるかもしれません!日本酒ビギナーさんの場合、まずは先入観にとらわれず、どれが自分の口に合う日本酒なのかな?ということをゼロから探っていくのが、いいお酒に出会う近道ですね。

日本酒度が超高いお酒

ここまでくると、もう日本酒度とか酸度とかどうでもいいかもしれませんが、”ちなみに”ということで最も日本酒度が高いお酒についてご紹介します。

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ウェブメディアのSAKETIMESさんによると、最も日本酒度が高い日本酒は『山法師 純米生原酒 爆雷辛口』というお酒だそうで、その日本酒度はなんとプラス28度!

思い出してくださいね。先ほど私は、プラス3度〜5度で「辛口」と言われると書きました。なんとその辛口基準を6〜9倍も上回ってしまった究極の激辛口酒なんですね。ちなみに精米歩合は70%で、お米には出羽の里を使用していて、アルコール度数は18〜19度だそうです。想像しただけでも舌がピリピリしてきます・・・

甘い日本酒が好きな私にはちょっと手が出せませんが、辛い日本酒が大好きだという方がいれば、ぜひ試してみてください!

参考:
お酒の甘口辛口ってなんだろう?|日本酒の用語意味・雑学「地酒解体新書」||地酒蔵元会
日本酒の甘口・辛口について
地域によって異なる日本酒の味:都道府県による甘口・辛口の違い
日本酒の辛口とは何なのか?甘口・辛口という表現について – SAKETIMES
日本酒の「辛口信仰」にもの申す | 酔香
「日本酒度」の誤解:とある居酒屋主任の「山形の酒は俺の嫁」 – ブロマガ
リビングにおける温熱環境と快適感に関する研究
甘辛度とは – 日本酒用語 Weblio辞書
全国市販酒類調査の結果について|統計情報・各種資料|国税庁
【追記あり】日本一の「辛口」日本酒はこれだ!常識を覆す、日本酒度+20超えの日本酒3選 + 1 – SAKETIMES