『英勲(えいくん)』という日本酒があります。京都の伏見に蔵を構える齊藤酒造さんのお酒です。

バンクーバーで出会った、英勲の『古都千年』というお酒に惹かれた僕は、今回齊藤酒造の取締役・齊藤洸さまにSkypeでお話を伺う事ができましたので、そのお話の中でどうしても伝えておきたいと感じた、英勲にまつわる4つのお話をご紹介します!

『英勲』って、一体どういう意味?

僕は結構、味だけでなく、そのストーリーに惹かれて日本酒を選ぶところがあります。その意味で、英勲さんの名前に隠されたビハインドストーリーにはぐっときました。まずは少しだけ齊藤家の歴史をご紹介します!

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時は1895年(明治28年)、当時京都の伏見にて呉服屋業を営んでいた齊藤家の9代目が、若干18歳にして造り酒屋への転業を決意したそうです。

元々伏見には「巨椋池(おぐらいけ)」という当時日本で2番目に大きい湖がありました。その巨椋池から大阪へと続く川を、京都から大阪へ向かう人が水路として利用していたために、当時は呉服屋家業がお土産屋として人気を博していたのだそうです。

しかし明治になり、鉄道が普及してきた段階で人の流れが川から陸へと移ります。すると、お土産屋として栄えた呉服屋・齊藤家は、徐々に厳しい立場に晒されます。

この変化の中で9代目が下したのが、造り酒屋への転換だったそうです。前述の通り当時まだ18歳。ほとんどお酒のことなんて知らないでしょうに、すごい決断だったでしょう。その後、手探りの状態で新たなビジネスを軌道に乗せ、平成の時代まで酒屋が続いていることを考えると、この決断と実行力は偉大だなあと、第三者の僕でも思います。

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その偉大な9代目の戒名のひと文字目であった「勲」という字を取って『英勲』というブランドが誕生したのが、大正4年のこと。大正天皇の即位を記念する形で、明治天皇の崩御(亡くなられること)の服喪期間(天皇が亡くなったあとの喪に服す期間)が過ぎた時に名付けられました。

この、当時『プロジェクトX』があったら絶対テーマになっていただろうなあというエピソードを伺って、単純な僕は英勲がもっと好きになりました(笑)

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14年連続で金賞を受賞した味の特徴

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英勲さんは、14年間連続して新酒鑑評会で金賞を受賞している蔵です。その秘密を知りたくて酒の味へのこだわりをお伺いした所、次のようにお答え頂きました。

齊藤酒造では「淡麗優雅(たんれいゆうが)」を理想的なお酒の味だとしています。1杯飲んで「これは美味いな」って思っても、「2杯目はもういいや」って思うお酒って、本当に美味しいんだろうか?逆に「このお酒って大した特徴はないよな」なんて文句を言いながらも、気がついたら1本空いているようなお酒のほうが、多分スっと入ってきてお料理の邪魔をしていなかったりっていうところもあるんだろうなって思っています。

料理の邪魔をせず、悪く言えば主張がない味を目指す。これが「優雅であれ」という味の理想につながってきます。

気づかぬ間に沢山飲んでしまうお酒を造るというのは、言うは易し行うは難しなのかもと思います。気軽に飲み続けるためには、美味しいのは勿論のことですが、引っかかりすぎても(印象が強すぎても)いけないし、色んな料理(つまみ)に合わないといけないし、それでいてあまり気にせずに飲み続けられる価格であることも求められます。

こんなこともおっしゃっています。

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画像:齊藤酒造・齊藤社長

社長がいつも「お酒はメインではない。お酒は飲まなくても人は生きていけるけれど、ご飯は食べないと人は生きていけない」と言います。お酒はあくまで、ご飯をより引き立たせるためのツールであって、料理に華を飾る脇役なんです。だから、どんな料理に合うかは、その人に依るものだと考えています。

とはいえ一応、個人的なオススメとしては、出汁の利いた京料理に合うと思います。あとは、チーズとか生ハムとかには結構合うとも思います。

お酒はあくまで料理を飾るもの。「脇役だ」という考えでスッキリした日本酒を作られていることが、金賞14年連続受賞という成果に現れているのかもしれません。

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こだわりの酒米『祝米(いわいまい)』

英勲を語る上で欠かせないのが『祝米』の存在です。

祝米とは、「京都のみで生産され、京都の酒蔵でのみに使用が許され、一切食用にもならない」という、特殊なルールのもとに栽培されている酒米だそうです。元々は1900年代中頃に1度は京都府の奨励品種として栽培されていたお米で、その育てにくさなどが理由で一旦栽培中止されたものを、近年になって再び齊藤酒造さんや伏見酒造組合さんの力によって復活した品種です。

現在は全生産量の40%以上を齊藤酒造さんがお酒にしているのだそう。

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このお米について齊藤さんは、次のようにおっしゃいます。

祝米って正直言って、「日本酒用のお米」と言う割にはかなり扱いづらいんです。お米の粒がすごく大きい上に稲穂の背が高いので、倒れやすく、なにもなくても稲穂が土に付くか付かないかぐらいになってしまうんです。お米は地面につくとすぐに発芽してしまい、製品として売れなくなってしまうので、農家さんが「作りたくない」と嫌がるんです。そして、米粒自体も少し柔らかいので、精米すると砕けやすいんですね。精米が非常に難しい。

ここまで聞くとなぜ、このお米にそこまでこだわった酒造りをしているのか不思議なくらいですよね(笑) その疑問に対して齊藤さんは、次のように答えてくださいました。

このお米を使う1番の理由はやはり、京都でしか生産できず、京都の酒蔵でしか使えないというところですね。勿論、酒米としては山田錦が優秀なお米で、その質は雲泥の差なんですけど、山田錦はほぼ全国どのお蔵さんも使われているので、面白みがなく、悪い言い方をすれば「ありふれている」という気持ちもあります。祝米は京都特産で、他府県では絶対に真似出来ないことですから、その「京都」というところにこだわりたいというのが、1番大きい理由ですね

祝米を使ったお酒の、味の特徴についてもうかがってみました。

実は、祝米の本来の特徴通りに造ったお酒というのは、すごいゴリゴリの味(雑味が出やすい)になるんです。英勲シリーズの祝米を使った日本酒を、最初の「祝米使用酒」として飲まれる方の中には、祝米はスッキリしたお酒になる原料米だと思われている方も結構いらっしゃるんですが、本来は逆でして。お米の味わいや甘さと、雑味とが混ざり合う良いバランスのところで制御してあげないといけないので、そこが1番苦労するところです。麹や酵母、温度管理には非常に気を遣いますね。

他にも全国にいくつか、地元で取れた原材料にこだわる蔵がありますが、こういったこだわりって今とても大事だなあと感じます。

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齊藤さんがおっしゃる通り、今やどこの蔵も山田錦ばかりです(齊藤酒造さんも、山田錦を原料米にしたお酒も造られています)。全体的に日本酒蔵のレベルが上っている中、「自分たちにしかできないこと」を見つけて、その部分を好きになってもらうという努力が素晴らしいなあと思いました。

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海外での日本酒普及活動

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画像:齊藤酒造・齊藤洸さま

僕が今回インタビューさせていただいた齊藤洸さんと初めてお会いしたのは、バンクーバーでの日本酒イベントでした。わざわざ海外でのイベントに駆けつけ、自らお酒を振る舞われている様子を拝見した私は、英勲の世界展開にも興味を持ちました。

齊藤さんは、年に3〜5回ほど、アジアを中心とした海外に出張をすることがあり、その中で「日本酒の深い側面を、海外でもっと伝えていかないといけない」と感じられたそうです。

日本酒の世界って、アルコール飲料の世界の中でもとりわけ深いと個人的には思っているんです。例えば、季節によって同じお酒でも飲む際の温度を変える。しかもそれは、細かく分けると5℃単位で呼び方が変わるほどで、これが最近できた分け方ではなくてはるか昔からその分け方で人々が味を感じ分けていました。あるいは酒器。日本酒はグラスのおちょこで飲むこともあれば、陶器や磁器で飲むこともある。今はワイングラスで飲まれることもあり、それぞれで雰囲気や味わいが違ってきます。

海外でそういうお話をすると、すごく新鮮な答えが返ってくるんですね。そういう反応を見るたびに、日本酒のすばらしい特徴だなと感じるんです。やっぱりそういう特徴、世界っていうのを知ってもらいたくて。だから海外に行って、現地の方たちとお話をする際には、こういうお話を必ずするようにしています。

僕も同じく海外にて日本酒を楽しんでいて、カナダの人と一緒にお酒を楽しむ機会がある者ですので、共感するところもあれば「なるほど」と納得してしまうところも大いにあるお話でした。

また、海外で驚かれた日本酒にまつわる体験談も伺いました。

香港の印象が強いですね。まず日本酒に関する理解がすごくあるんです。というのも、香港って輸入に関税がかからないので、他の国に比べて売価がすごく安いんです。だいたい、日本の売価の1.7倍くらいまでで買えるんです。だから他の国に比べると良いお酒にも手がつけられやすい状況なんです。はじめて香港に行った時に、高いお酒(大吟醸や純米吟醸、純米など)ばかりしかなくて、びっくりしました。

なんとも羨ましい事情ですね〜。このサイトでは何度も言っているとおり、バンクーバーでの日本酒売価は、日本の3倍くらいはする印象です。ってことはその約半分くらいで飲めるということですか。ああ、先日購入した1本80カナダドル(2016年11月時点で約6500円)の純米吟醸(四合瓶・定価約2000円)を思い出して、泣けてきた(笑)

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うまさけがオススメしたい英勲の日本酒

それでは最後に、うまさけ編集部がオススメしたい英勲の日本酒をご紹介します。

『古都千年』

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まずは冒頭でも触れた『古都千年』です。

古都千年は、これも先程から触れている祝米を100%使用した、英勲の看板的なお酒です。以前公開した『イギリスの日本酒事情について教えてもらった! #Skype飲み会』というページの中でも触れているのですが、梨のような甘い香りとフルーティーな舌触り、そしてスッキリした後味が最高でした。

僕達が飲んだのは「純米吟醸」でしたが、古都千年にはその他に「純米大吟醸」「純米」もあります。合計3種類の、同じお米を使った精米歩合の異なるラインナップですので、じっくり飲み比べてみるのも楽しいかと思います!

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齊藤さんの個人的なオススメは『英勲 1.8L詰・パック酒』

齊藤さんの個人的なおすすめを伺うと、なんと『英勲 1.8L詰・パック酒』とお答えをいただきました。

経済的っていうのも当然あるんですけど、単純に美味しいです。知らないうちに進んでいるっていうお酒です。飲んだ瞬間には「ふつうにうまいな」くらいなんですけど、気がついたら「あ、飲みすぎた(笑)」ってなっているようなお酒です(笑)

意外な回答でしたが、これぞ齊藤酒造さんが目指されている日本酒のあるべき像なのかもしれませんね。試してみてください!

編集後記

ここまでが予定していたインタビューだったのですが、最後にとっても「深イイ」お話も伺ったので、シェアさせてもらいます。

日本酒に限りませんが、お酒を飲むことって、単に食品を消費するのとは異なる行為だと思うんですよ。例えば東京ディズニーランド行った日に、毎日お酒を飲む人がいつもと同じ量のお酒を飲まないと思うんですよ。で、その飲まなかった分を次の日に繰り越して普段の倍飲むかというと、そうではないと思うんです。これをアルコール業界としてみると、日本酒がワインに負けたとかそういう話ではなく、アルコール業界全体がディズニーランドというレジャーに負けた瞬間なんです。

こう考えるとお酒っていうのは、食品ではなく「エンターテイメント」のカテゴリだと思うんです。「飲酒」というエンターテイメント。それを忘れてしまうことを、私は危険だと感じます。

これは、日本酒業界の課題について質問した際にご回答いただいたお話だったのですが、自らのビジネスの立ち位置をどこに置くのかで課題が変わるというとても深イイお話だと感じました。業界内での勝負ではなく、食卓に華を添えるエンターテイナーとして、酒蔵に何が出来るか?この観点って、オリジナルで面白いです!

まだ英勲を飲んだことがない方、ぜひ一度お試しください〜!