最近はやりの日本酒ジャンルは「スパークリング」と「にごり酒」のイメージですが、いかがでしょうか。

いずれも、いわゆる一般的な日本酒とはタイプの違う日本酒だけに、これだけ飲めるという方もいらっしゃって、そしてふと思う「にごり酒ってなんだ?」なんですね。

栄養がたくさん含まれるにごり酒についてちゃんと知ると、これからの晩酌がもっと楽しくなりますよ!

にごり酒とは?

にごり酒について理解するためには、まず日本酒の製造工程について理解しなければなりません。

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『日本酒の作り方!全11工程でお米からお酒までを逆再生!』というページでも説明していますが、ここでも簡単に日本酒の製造工程を振り返ってみましょう。

  1. 精米:お米(玄米)を磨き、白い中心だけにする
  2. 洗米・浸漬:お米を洗い、水に漬ける
  3. 蒸米:お米を蒸す
  4. 製麴:お米に麹菌をまぶし、麹を作る
  5. 仕込み:麹、酵母、蒸米、水を混ぜ、お米をアルコール発酵させる
  6. 上槽:発酵してドロドロになったお米(もろみ)を絞り、液体を抽出する
  7. おり引き:液体を寝かせ、底に溜まった澱(おり)飲みを取り除く
  8. 濾過:炭素やフィルターを使って、お酒をさらに濾過する
  9. 火入れ:お酒を60度〜65度に熱する。酵母の働きを止める役割と、殺菌の役割がある
  10. 貯蔵:貯蔵し、出荷を待つ
  11. 瓶詰め:瓶に詰め、出荷される

この工程の中で6番目に来る「上槽」にて、絞りを荒くし、澱を残したままにするのが「にごり酒」なんです。

したがって、にごり酒の底に溜まっているあの白い沈殿物は澱であり、もろみであり、さらに元を辿ればお米そのものなんですよね。そしてその白い沈殿物が、お酒の味を滑らかにトロッとした感じに変えてくれます。

本当に荒く濾すと、『飛騨のどぶ』というにごり酒のように、かな〜りどろっとしたお酒になります。ここまで来るともう、飲むというより「食べる」と表現すべきかもしれません(笑)

なぜ、にごり酒は誕生した?

にごり酒が誕生した理由を説明することは、非常に難しいのではないかと思います。何故かと言うと、そもそも日本酒というのは、はるか昔にはにごった状態で販売されていたからです。それを、どこかのタイミングで綺麗に濾過する方法を見つけた人がいて、それから透明の日本酒が産まれたと言えます。

では、どうやってにごっていない日本酒はうまれたのでしょうか?

IBCパブリッシングの『日本の酒』という本で、筆者のジョン・コトナーが面白い説を紹介しています。

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兵庫県の伊丹は、その昔日本酒づくりの中心地でした。ここのとある酒蔵で、ひとりの蔵人が首になったことの腹いせに、蔵の酒樽に大量の木炭を入れたそうです。日本酒の濾過(透明にする作業)というのは、今でも多くが「炭濾過」という手法を使うのですが、この「仕返し男」の犯行が偶然にも蔵人たちに炭濾過を発見させることになったのです。

まあ、逸話の範疇を超えないですが、そういう話が残っているんだという程度に楽しんでおくと良いと思います!

にごり酒には、栄養がたっぷり!?

そして何より、この澱の部分には栄養がたっくさん詰まっているんですよ!

要するに、この澱の部分って、本来は酒粕になる部分なんです。

酒粕には、たんぱく質やビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB5、食物繊維が含まれているそうで、岩手の蔵元である世嬉の一酒造は、ブログで「にごり酒は夏バテ防止に効果的」だと紹介していますす。

なお、にごり酒は、間違っても「漉していないお酒」ではないです。なぜなら、法律上日本酒(清酒)は「米を発酵させて漉したお酒(意訳)」だと決められているからです。この辺りに関して詳しくは『「日本酒」と「清酒」って何が違うの?』をごらんください。

にごり酒とどぶろくの違い

荒く漉してもろみを残したものがにごり酒だとすれば、濾さないままでもろみが残ったままのものが『どぶろく』です。

その製法上の違いを含め、両者には次のような違いがあります。

  • 製法上の違い
  • どぶろくはフィルターに一切通していない状態のもろみを、そのままいただく飲み物(つまり1度も漉していない状態)で、にごり酒は、粗いフィルターには通したものの、まだまだ白いままのものです。

    つまり、1度でもフィルターにかければ「どぶろく」が「にごり酒」になります!

  • 法律(酒税法)上の違い
  • 法律上、どぶろくは「その他の醸造酒」として扱われるのに対し、にごり酒は日本酒と同じ「清酒」に分類されます。この違いにより、にごり酒には酒税として1kgあたり120,000円が課せられるのに対し、どぶろくには1kgあたり100,000円の課税で済むような税率の設定になっています。

  • 歴史上のどぶろくの特徴
  • 加えてどぶろくは、日本では自宅で作ることができるお酒として楽しまれていた時代がありました。しかし明治になり、戦時中に酒税の取り逃がしを防ぐために自家製どぶろくの禁止が決められたのだそうです。その時の決まりが現在まで続いているため、どぶろくは(もちろん、にごり酒も)特別な許可がないと自宅で製造することはできません。

一方で、にごり酒とどぶろくの共通点は、いずれも日本酒を作る過程においてできるものだということです。にごり酒、どぶろくのいずれも、日本酒になる前のもろみやその他不純物を漉しきっていない状態のものです。

にごり酒とどぶろくの違いが理解できましたか?もう1度簡単にまとめると、1度も漉していない日本酒が「どぶろく」、少し漉したけどまだ濁っているのが「にごり酒」、澄み渡るまで漉し切ったのが濁ってない日本酒となります。

にごり酒の種類

にごり酒には、製法に由来する味の違いで、ふたつの種類があります。

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  1. 無炭酸(とろやか系)にごり酒
  2. もろみの状態からフィルターに通して、少しだけ濁った状態になったにごり酒に、火を入れて(温めて)から出荷するものは、無炭酸のとろとろとしたにごり酒になります。

    この火入れの作業は、通常の日本酒でも行われるもので、流通の過程で品質が安定するように殺菌をするという役割があります。

  3. 微炭酸(しげき系)にごり酒
  4. にごり酒に、火を入れず(温めず)に出荷するものは、微炭酸で刺激のあるにごり酒になります。通常の日本酒の場合、このように火を入れない状態で出荷されたものは「生酒」と言われます。

    火入れの作業をしないということは、入れた場合とは逆に品質の安定が難しくなります。しかし一方で、酵母を殺すことなく出荷されるため、流通の最中にもそれらが活動を継続し、お酒が微炭酸状態に仕上がるというわけです。

にごり酒の飲み方

にごり酒は、あまり熱燗にはしないというのが一般論です。

購入後、自宅でそっと保管しておけば、瓶の中で上部には透き通った液体が、下部には濁った状態の液体がそれぞれ分離した状態になります。

ゆっくりと栓を開けて、上の澄んだところだけを飲めば、普通の日本酒のような味が楽しめるし、全体を静かに混ぜてから飲めば、まろやかなにごり酒が楽しめます。ただし、微炭酸系のにごり酒を混ぜる際には、勢いよくやりすぎて吹きこぼれないように注意しましょう。

ちょっと変わった飲み方として、クックパッドにいくつもの「にごり酒レシピ」が掲載されていますので、特に素敵なものをチョイスしてみました。

参考:
実は似て非なるもの?「にごり酒」と「どぶろく」の違いとは | NOMOOO(ノモー)
酒税の税率 : 財務省
にごり酒の飲み方・楽しみ方
第3回 飲み心地は夢心地!にごり酒|日本酒(清酒)の楽しみ方|オエノングループ
酒粕の栄養|酒粕の小林 小林春吉商店
夏ばて防止に夏のにごり酒 | 世嬉の一酒造株式会社